相続の際に注意が必要な非公開会社の株式・非上場株とは
非公開会社の株式・非上場株を所有しているケースは、あまり多くはありません。しかし、所有している場合には相続の際に問題が生じやすいので注意が必要です。
非上場株とは
「非公開会社株式」とは、譲渡制限があり自由に株式の譲渡ができない株式のこと。会社法上ですべての株式について譲渡制限のある株式を発行しているかどうかによって分類される用語です。
他方で、証券取引所で取引される株を「上場株」と呼び、上場していない株式を「非上場株」と呼びます。
分類の仕方が違うため、本来は言葉の使い方に注意すべきですが、「非公開会社の株式」と「非上場株」が「譲渡の難しい取引相場価格のない株式」としてほぼ同じニュアンスで使われる場合もあります。
日本における多くの会社が非上場の株式会社で、さらにその内の大部分が非公開会社であるとの事実もあり、両者を明確に区別しない方が理解しやすいケースは多いでしょう。
以下では、なるべく「非上場株」に言葉を統一して解説します。
公開会社と非公開会社の違い
はじめに、「公開会社」と「非公開会社」について簡単に確認しましょう。
「公開会社」とは、発行する全部もしくは一部の株式について譲渡制限がない会社です。
逆に、すべての株式に譲渡制限がある会社を、「非公開会社」または「株式譲渡制限会社」と呼んでいます。
株式の譲渡制限とは、株式の取得に会社の承認を要求して自由な株式譲渡を制限する制度。会社の定款で譲渡制限を定められ、登記で公示される事項です。
譲渡制限のない株式を発行する公開会社は、株主が細かく変動する大規模な会社が想定されるため、非公開会社と異なる一定の制限があるのです。
たとえば、公開会社は取締役会や監査役の設置が義務であったり、役員の任期を非公開会社ほどには伸長できなかったりします。
一方で、株主を細かく変動させず、経営権を固定したい小規模な会社の場合は、通常は非公開会社にします。
非上場株を保有しているケースとは
投資目的で、小規模な非公開会社の株式である非上場株を保有するケースはあまり見られません。非上場株を保有している場合には、3つのケースが考えられます。
【1】創業者として会社を自ら設立もしくは事業を承継し、自社の非上場株を保有
【2】従業員持株制度(※)により、非上場株を保有
【3】友人や取引先からの頼みといった個別事情で、非上場株の出資を引き受けて保有
(※)従業員持株制度とは、従業員の会社の自社株取得を奨励する社内的な制度です。従業員持株会を通じて株式を共同購入している場合が多いでしょう。
非上場株を相続する場合の手続き
相続は権利の継承であり譲渡ではないため、非上場株(譲渡制限のある株式)の相続に会社の承認は必要ありません。ですが、会社へ連絡して誰が相続により承継したか報告し、株主名簿の書換(かきかえ)を請求する必要があります。
株主名簿の書換は会社の事務手続きです。通常は、相続を証明する書類など会社から要求された書類を提出し、手続きを進めていきます。
具体的には以下の書類(の写し)の提出を要求されるケースが多いでしょう。
<株主名簿の書換の事務手続きに必要な書類例>
・相続人を確定する戸籍関係書類一式(被相続人の死亡から出生まで遡る戸籍謄本・改正原戸籍謄本・除籍謄本、全相続人の戸籍謄抄本など)
・遺産分割協議書と印鑑証明書
・(ある場合には)遺言書
非上場株相続の際に起こりやすい問題とは
なぜ、非上場株を相続するのは難しいのでしょうか。遺産に非上場株が含まれる際に生じやすい問題を、具体的な事例とともに確認していきましょう。
評価額の計算が難しい
日々取引が行われている上場株であれば、相続が発生した日の株価の終値や相続が発生した月の終値の平均額などから、比較的簡単に評価額を算出できます。
しかし非上場株は、取引相場のない株式(※)であり、保有株式の議決件割合が一定以上かどうかの判定(同族株主の判定)や会社規模の判定などを踏まえた、難しい評価額の計算を必要とするのです。
そして、相続税の申告が必要な場合は、遺産である株式の評価額を正しく計算しなければいけません。ただし、細かな専門的知識がないと正確な計算がとても難しいので、中小企業の相続に精通した専門家へ相談したほうが最善でしょう。
簡単に評価額の計算方法を紹介しましょう。
株式保有割合が一定以上の場合
株式保有割合が一定以上の場合は、会社規模による分類のもとで、一株あたりの純資産価額を基準とする純資産価額方式や、事業内容が類似している上場企業の株価等を考慮する類似業種比準方式を使って計算します。
保有割合が一定以下の場合
保有割合が一定以下の場合は、年の配当額や1株当たりの資本金額を考慮して計算する配当還元価額方式で計算します。
さらに土地保有特定会社や株式保有特定会社の判定などにも気をつける必要があります。
売却が難しい
非上場株は、証券取引所での売買ができません。ゆえに、現金化しての遺産分割が難しく、問題となりやすいのです。
希望すれば株式発行会社が買い取ってくれるケースや、定款規定により会社側が相続人に対する売渡請求をするケースがあります。
しかし、買い手となる第三者を地道に探すしかないケースもあるのです。買い手となる第三者を探すのも、相手方との売却金額の交渉も、簡単ではありません。買い手が見つかった場合は、会社へ譲渡承認請求をして認めてもらう手続きが必要です。
譲渡不承認の場合には、会社もしくは指定買取人に売却する道があります。しかし、価格交渉が決裂してしまうと、裁判所への売買価格決定の申し立てまで必要となるケースも…。
非上場株の売却は、時間がかかる難しい作業と言わざるをえないのです。
遺産分割協議の難航・高額の相続税負担
評価額の計算が難しいため、想定よりも非上場株の評価額が高かった場合、起こりがちな問題があります。
公平な相続の実現が難しくて遺産分割協議が合意に至らないケースや、高額の相続税がかかるケースです。
たとえば、相続人が数人いる場合、会社経営を引き継ぐ者ひとりだけに、株式を相続させたいケースを考えてみましょう。他の相続人に相続させる財産とつり合いが取れず、不公平となり、遺産分割協議は難航するリスクがあるのです。
また、非上場株が思いもよらない高い評価額となり、株式を売却しての現金化もできず、相続税を納めるのに苦労するリスクもあります。
非上場株を持っている場合の相続対策例
何もしないと非上場株の相続でトラブルが起きやすい以上、生前に売却処分など計画的な対策が重要となってくるでしょう。
とくにオーナーとして多くの非上場株を持っており、事業承継を円滑に進めたい場合には、早くからの対策が一般的に推奨されています。
会社の対応を確認しておき、生前に売却するのが有効
自分が亡くなった際に、会社が非上場株を買い取ってくれそうかどうか、買取価格がどうなるかを、会社に相談して事前に確認しておくとよいでしょう。
将来の会社の対応に不安がある場合は、会社や第三者への売却を早めに試み、可能なら現金化しておく対策も一案です。
望む金額で買い取ってくれる第三者は、時間をしっかりかけて準備するほど見つかる可能性は高まります。比例して、急いで安い金額で売却してしまい、後悔するリスクは低くなるはずです。
オーナーの場合は、早めに円滑な事業承継と相続の対策を
会社経営を円滑に行うには、オーナーが一定数以上の株式を保有し、会社についての意思決定をしやすい状態にしておく必要があります。
オーナーとは、大半の株式を保有する実質的な会社の所有者です。将来オーナーが亡くなる際に株主が分散しないよう、生前に次のオーナーを誰とするか考えておく必要性が大きいでしょう。
専門家に相談のうえ非上場株の株価引き下げ対策をしたり、一定の要件のもとに、納税の猶予や免除の可能性がある事業承継税制(※)の利用まで考慮した方がよいケースもあるかもしれません。
早い段階から将来の相続と事業承継に備えておく必要があるため、いくつかの対策を講じて準備していきましょう。
生前に贈与や売買で非上場株を譲渡しておく
次のオーナーにしたい人へ、非上場株の生前贈与や売買による譲渡をしておくのは有効な方法です。会社の経営状況によって、贈与税を抑えられるタイミングがあるかもしれません。
非上場株以外の財産の準備をしておく
相続人が複数いる場合に非上場株以外の財産を準備しておけば、非上場株を相続しない相続人に他の財産を渡せるため、遺産分割協議が円滑に進んだり遺留分の問題を解決できたりします。相続税の納税資金にもなるため、非上場株以外にまとまった資金を残すのは有効です。
遺言を残す
遺留分に注意しつつ遺言を残し、相続人への相続や親族・第三者への遺贈により、事業を承継させたい人に非上場株を渡せるようにしておくのは、将来のトラブルを防ぐ一つの手段となります。
(※)参照:「法人版事業承継税制」/国税庁
非上場株の相続に不安がある際は早めに相談!情報に精通した専門家へ
非上場株の相続に関しては、評価額の計算が難しく将来の相続税負担がわかりにくい点や、事業承継をどうやって円滑に進めるかといった点から、さまざまな問題が発生する可能性は大きいでしょう。
相続税など税金面に不安がある場合には、早めに中小企業の税務に詳しい税理士に相談していきましょう。
非上場株の売却を検討する場合や、非上場株を相続しない者へのケアといった多様なサポートが必要な場合には、交渉の専門家であり総合的な法的サポートやアドバイスが可能な、弁護士に早めに相談するのをおすすめします。