遺産分割の内容が不公平なケースの典型例とは
相続が発生すると、遺言で分割方法が定められているケースなどを除いて、
『法定相続分通りに遺産を分けるのか』『異なる割合で分けるのか』『具体的にどう分けるのか』を決める必要があります。
相続のトラブルはなぜ生じるのか
遺産分割が必要となる際は、まずは相続人の誰かが主導して遺産などについて調査して作成した遺産分割案を提示し、他の相続人に同意を求める事例が多いでしょう。
しかし主導した相続人が、自分に有利な案を作成する可能性もあります。そして、他の相続人は提案された遺産分割の内容に納得できず、どう対応すべきか悩むケースが少なくありません。
不公平・不合理な遺産分割の内容の典型例について確認し、内容に不満があり納得できない場合は、安易に同意しないようにしましょう。
話し合いで意見をすり合わせたり、家庭裁判所での手続きを利用したりして、公平な分割の実現を求めていくのが一般的な遺産分割の流れです。
不公平な遺産分割・3つの典型例
不公平・不合理な遺産分割の内容の典型例をいくつか紹介します。
遺産分割内容の決定には相続人全員の合意が必要であり、ひとりでも同意しなければ成立しないので、分割案に不満がある場合には同意しないのが大切です。
【典型例1】法定相続分とかけ離れた不公平な内容だった
家を継ぐ者や年長者が多くの財産を取得する、一部の相続人に有利な内容となっている場合は少なくありません。
例えば、価値の高い不動産を相続人のひとりが取得し、不動産に対して額が少ない預貯金や現金を他の相続人で分けるケースです。
遺産の価値の大部分を一つの不動産が占める場合など、分割方法に悩むケースがあるのは事実ですが、なるべく公平に法定相続分通りに分けたいのであれば、内容の不公平を主張するべきです。
代償金の支払い・換価しての分割など、より公平に分割する手段を求めるとよいでしょう。
【典型例2】遺産の評価方法が不合理だった
遺産に不動産や株式など、価格の算定が難しい財産が含まれる場合に、評価方法や評価額が不合理な可能性があります。
受け取る相続人としては、低い評価額で計算できれば法定相続分で分割した体で多くの価値を取得できるので、自分が受け取る不動産や株式の評価を低く見積りがちです。
適当な評価を許してしまうと、他の相続人にとって不公平な内容となる可能性があるのです。
評価方法にも目を配り、相続人全員が納得する方法で遺産価値を計算し直すよう主張しましょう。
【典型例3】特別受益や寄与分が考慮されていない
公平な相続を実現させる制度として、民法上特別受益や寄与分が認められています。
生前贈与などの特別な利益・遺産への特別な貢献を考慮して、より公平で平等な具体的相続分を計算するための制度です。
特別受益と寄与分については次の項目で解説しますが、具体的相続分として受け取るべき遺産額に関係してくるため、遺産分割の内容を決定する中で判断すべき事項となります。
最初の遺産分割案において特別受益と寄与分が考慮されている可能性は低く、一部の相続人に不公平な結果となりやすいケースなので、気を付けるとよいでしょう。
遺産分割において見逃されやすい『特別受益』と『寄与分』とは
どちらも公平な遺産分割を実現するための制度である『特別受益』と『寄与分』は、内容が抽象的で結論が分かりにくい側面があるため、遺産分割において見逃されやすいのです。
イメージしやすいように、まずは概要を理解しておきましょう。ただし、実際の事例において、特別受益や寄与分が認められるかどうかの判断は難しい点に留意してください。
特別受益とは
相続分の前渡しと評価される、被相続人から生前に受けた行為(典型例が生前贈与)について、前渡しを受けた利益を『特別受益』と呼びます。
特別受益は、遺産分割において特別受益分を遺産に持ち戻して計算し、より公平な結論を導こうとする制度です。
例えば「相続人は子供ふたりで遺産が2000万円、特別受益として子供のひとりが1000万円の生前贈与を受けていた事例」において、特別受益を持ち戻して遺産を3000万円として計算し、最終的に子供ふたりがそれぞれ1500万円ずつ遺産を受け取るべきと考えるのです。
もともと1000万円生前贈与を受けていた子供は遺産から500万円を受け取り、他の子供が遺産のうち1500万円を受け取れば、公平な結論となります。
寄与分とは
『寄与分』とは、相続人全員が法定相続分に基づいて相続する財産とは別に、被相続人の財産の維持・増加にとくに貢献した相続人に認められる制度です。
例えば、被相続人の介護を長年行ってきた相続人や、家業を無償で手伝ってきた相続人が、その貢献度に応じて、法定相続分に加えて、さらに財産を相続できる可能性があります。
認められるハードルは高く、額の計算方法も難解ですが、相続人の尽力により維持もしくは増加した遺産価値部分を『寄与分』として遺産から取り出し、相続分とは別に寄与を行った相続人に渡して公平を図る制度となっています。
例えば「相続人は子供ふたりで遺産が2000万円であり、子供のひとりが遺産の維持形成に特別に貢献して1000万円の寄与分が認められる事例」で公平な遺産分割割合を計算してみましょう。
遺産から寄与分を引いた1000万円を相続分とみなし、みなし相続財産である1000万円を法定相続分で分けます。特別な寄与を行った子供に寄与分1000万円と相続分500万円を取得させ、他の子供には相続分として500万円を渡す形で、公平な結論が導かれるのです。
【遺産分割で揉めた場合の解決】策家庭裁判所を利用した分割方法とは
遺産分割で提示された内容に納得できない場合は、まず相続人同士で話し合い、合意を目指しましょう。
それでも折り合えない時は、通常訴訟と異なり、家族間の争いを扱う家事事件として後見的役割を果たす家庭裁判所の管轄になります。家庭裁判所は家族間の問題を専門に扱うため、より円満な解決を目指していけるのです。専門的な知識を持つ裁判官の助けを借りながら、公平な遺産分割を実現しましょう。
遺産分割協議(相続人間の話し合い)での分割で円満解決を目指す
遺産分割はまず、相続人全員でよく協議し、分割割合や分割方法についての合意を試みるのが通常です。話し合いや歩み寄りが可能そうなら、自分の主張や考えを伝え、分割案を修正するよう交渉しましょう。
相続人間での協議がまとまれば、家庭裁判所の手続きを利用する労力や費用を節約できます。
また、相続人全員の合意で協議を成立させる際は、将来のトラブルを防止するため、遺産分割方法についてできるだけ細かい部分まで合意するのをおすすめします。
遺産分割協議は口頭でも可能とされていますが、実印を押して印鑑証明書も添付した遺産分割協議書を作成し、合意内容を明確に残しておきましょう。
調停での合意による分割で解決を目指す
相続人間の協議が不調のケースには、遺産分割調停での解決を目指しましょう。
調停とは、家庭裁判所において第三者である調停委員のあっせんや助言により話し合いをすすめ、合意形成を目指す手続きです。
民間の良識ある人から選ばれる調停委員は、中立の第三者の立場から経験に基づいたアドバイスを行い、合理的で公平な結論が導かれるよう尽力します。
家庭裁判所に調停を申し立てると、調停委員会を構成する2名の調停委員を仲介者としての話し合いが、1か月から2か月に一度の割合で何度か開かれ、合意できれば晴れて調停成立となるのです。
合意内容は家庭裁判所により調停調書として書面化され、遺産分割協議書と同様の効力があります。
なお、数回の話し合いを経ても調停成立の見込みがない場合は、調停不成立として自動的に遺産分割審判に移行します。
審判による分割で決着をつける
遺産分割審判とは、各相続人の主張と提出された証拠資料を元に一切の事情を斟酌し、家庭裁判所裁判官が、遺産分割の具体的な内容を決定する手続きです。
相続人による合意形成がどうしても不可能で、裁判所に決めてもらうしかないケースに必要となるでしょう。
遺産分割の争いに関しては、調停を申し立てずに、すぐに遺産分割審判を申し立てるのも可能です。しかし、家庭裁判所に審判を申し立てても、まずは話し合いである調停に付されるケースもあります。
調停のように多数の期日が設けられる可能性は低く、比較的短い期間で審判が下されるでしょう。
審判が下されると、即時抗告によって不服申し立てをしない限り内容が確定し、裁判所が決めた内容によって遺産が分割されます。
遺産分割調停や審判を利用する際の注意点とは
調停や審判を利用して遺産分割における争いを解決したい際の注意点も紹介します。
まずは、遺産の範囲など前提となる問題については分割に先立って明確にしておくべき点に気をつけましょう。
また、遺産分割調停や審判において家庭裁判所は後見的役割を担うとはいえ、必ず遺産を調査してくれる訳ではなく、自分の心情や苦労が必ずくみとってもらえるとも限らないので、過度の期待は避けるべきです。
遺産分割の前提となる問題を先に解決すべきケースに注意しよう
遺産分割をスムーズに進めるためには、事前にいくつかの点を確認が重要になります。
まず、法定相続人が誰であるかを明確にするのです。法定相続人に関して認知・縁組無効・親子関係不存在などについて争いがある場合には、事前に訴訟や審判で確定させておく必要があります。
次に、遺産の範囲についても特定するのです。
遺産の使い込みや名義預金の問題などの争いがある場合には、何が遺産となるのか、事前に訴訟で確定させた方がよいでしょう。
調停を申し立てる前に、上記の問題が解決していない状態で手続きを進めると、後に新たなトラブルが生じる可能性があります。
家庭裁判所への過度の期待は避けよう
遺産分割調停を申し立てれば、後見的役割を担う家庭裁判所が、隠れた遺産や特別受益を調査して明確にしてくれるはずと期待する方もいらっしゃるでしょう。
しかし家庭裁判所は遺産分割の調停において、相続人に対して後見的な役割を担いますが、すべての遺産を調査するわけではありません。遺産の範囲は、原則として相続人が特定する必要があります。
また、調停委員や裁判官に個人的な事情を訴えても、必ずしもそれが考慮されるとは限りません。客観的な事実や証拠に基づいた主張が重要視されます。
あくまで書面で説明可能な客観的事実や事情が重要視されるので、心情に訴えるより書面で合理性や公平性を論理的に説明するのが有効なのです。
とくに論理的な文書の作成については、弁護士などの専門家の力を借りることも有効な手段と言えるでしょう。
公平な遺産分割の実現を追求したいときは弁護士へ依頼しよう
不公平な遺産分割案を提示された場合は同意せず、公平な分割の実現を目指すべきです。
調停や審判を利用しても、必ずしも公平な結果になるとは限りません。裁判所を納得させるためには、論理的な主張と適切な証拠が必要です。
しかし、調停委員や裁判官を納得させる適切な証拠提出や事情の論理的な説明は、専門家である弁護士でないと難しい部分があるでしょう。
弁護士は、法的な知識と経験に基づき、あなたの権利を守り、公平な分割を実現するためのサポートを行います。