収益物件とは
収益物件とは、所有者が自ら使用せず、第三者へ賃貸して賃料を得る目的の不動産です。
アパートやマンションといった住居用の建物、ビルや倉庫といった事業用の建物がもっとも一般的な収益物件でしょう。
土地を他人に貸すケースでは駐車場が多く見られ、居住用や事業用の貸地も考えられます。
収益物件を相続する際の4つの問題点と留意点とは
日本では、相続税対策として収益物件を持つ方も多くいるため、収益物件の相続が発生するケースは少なくありません。
しかし収益物件の相続には、遺産分割や相続税申告における評価の問題、物件や賃料の管理の問題など、多くの留意点があります。
収益物件の相続を難しくする問題点として、「評価の計算方法の難しさ」「相続人以外の第三者も関係する複雑さ」が挙げられます。安易に判断するとトラブルになるリスクがあるのです。
そこで、収益物件を相続する際に揉め事の原因となりそうな点を大きく4つ挙げ、事前に調査し対策すべき点について解説します。収益物件が相続で関係しそうな方は、参考にしてください。
【1】そもそも収益物件の時価評価は難しい
収益物件の適正な時価を求めるには、収益性をどのように評価するかが問題となります。
居住用不動産(※)であれば、公示価格や路線価、固定資産税評価額といった公的価格を参考にして価値を計算しても大きな問題はないでしょう。
ですが収益物件を評価するには、公的価格で計算するのは収益性を考慮していないため、公平とならない場合があります。
公平に評価するには、収益性を考慮した計算方法をとる必要がある考えられており、評価が難しくなっているのです。
公平な遺産分割をするには、不動産の適正価格を算定する必要があります。
ところが、収益物件では適正な価格の認定自体が難しいため、相続の際問題となり、争点になりやすいと言えます。
(※)公示価格や路線価、固定資産税評価額といった公的価格を始めとする、不動産の一般的な評価方法について詳しくはこちらをご覧ください。
関連記事:遺産分割における不動産の評価方法・価格の決め方とは?判断材料やトラブルになりやすいケースを解説
【2】土地の評価に気を付けるべきケースがある
人に貸している不動産の相続税評価額は、自用の建物よりも低くなる場合があります。
貸家建付地
収益物件が建物の場合、通常は自分が所有する土地に自分名義の建物を建て、建物を他人に貸します。この状態の土地を「貸家建付地」といいます。
貸家建付地は収益物件を所有する多くのケースが該当し、使用に制限がある土地として相続税の評価額を下げられる場合があるのです。
貸宅地
貸宅地も制限がある所有権として評価を下げて計算できる場合があります。
「貸宅地(かしたくち)」とは、自分の土地を他人に貸して、他人名義の建物が建っている状態。つまり借地権(建物を建てるために地代を払って土地を使用する権利のこと)が設定された宅地の上に、建物が建っていて、権利の目的となっている宅地です。
駐車場など
コインパーキング会社に貸している駐車場などは、賃借権の負担があると認められると、一定の評価減が認められます。しかし青空駐車場は単なる更地であり、原則として路線価を用いた相続税評価がなされるでしょう。
【3】収益物件の相続をめぐる第三者への対応が大変になる
収益物件の相続の際には、共同相続人以外に第三者が関係しているなら、権利義務の承継が起こる場合があります。
たとえば「ローンや敷金変換債務といった債務の処理をどうするか」「賃貸借契約の引き継ぎや賃料収入や物件の管理をどうするか」といった、さまざまな問題が発生するのです。
こういった場合は各法律関係の判断について専門的知識を要するため、トラブルを未然に対策するには、法律の専門家である弁護士に相談しながらの対処を検討し、調整していく必要があるでしょう。
【4】収益物件は調査・チェックすべき点が多い
不動産の相続がある場合、通常の調査では法務局で登記事項証明書などを取得し、固定資産税評価額や路線価といった公的価格をチェックします。
ところが収益物件の場合は、収益性や現在の状態を判断するために、通常の調査に加えて得られる賃料や運営にかかる費用について、詳細に調査する必要があるのです。
調査やチェック内容は多岐にわたりますが、事前にしっかり対応しておけば、収益物件の評価やトラブルの予防を考える際に役立ちます。
賃貸借契約内容を詳細に確認
契約期間や・賃料・敷金・礼金・更新料など賃貸借契約内容を詳細に確認しておいたほうがよいでしょう。また、複数の借主がいる場合は、表にして(※レントロールの作成)わかりやすく把握できるよう作成を。
(※)レントロール(rent roll)は、直訳すれば「賃貸料台帳」。複数の借主の賃貸条件を一目で見てわかりやすくまとめた一覧表で、賃貸不動産の調査・評価に活用されています。
管理委託会社はじめ諸々の契約内容の洗い出し
賃貸借契約や建物の管理を委託している会社があれば、委託契約の内容・問題なく管理されているかを確認しておきましょう。
他にも「建物は現在の建築規制に適合しているか」「需要のある物件で賃料は適正かどうか」「ローンが残っているか」といった点までチェックしておく必要があります。
遺産分割と相続税申告での、一般的な収益物件の評価方法
収益物件の時価評価は難しいとの結論を先に述べましたが、正確な計算はできなくとも評価方法についてイメージできると、評価額の合意が必要な際に納得しやすくなるでしょう。
自己所有土地に収益物件を所有するケースについての、収益物件の価値の算定方法について簡単に紹介します。
遺産分割などで収益物件の時価を評価したい場合の算定方法
不動産の価格(時価)決定には市場性・収益性・費用性が関係しています。
よって、不動産の鑑定評価の場面では、取引事例比較法・収益還元法・原価法の3つの方法で総合的に判断していくのが一般的です。
中でも収益物件は収益を得る目的で所有しているため、収益還元法を重視して評価するのが妥当とされています。
・将来生み出されるであろう収益を現在の価格に置き換える収益還元法
・不動産の再調達に必要な費用を算出する原価法
収益還元法による評価算定
収益還元法による評価の算定では、純収益を現在の価値に割り戻す数値「還元利回り」や、一定期間経過後の純収益や将来の売却予想価格を現在の価格に割り戻す「割引率」をどう設定するかが問題となります。
将来生み出されると予想される収益を現在価値に換算する計算が収益還元法であり、仮定の数値を利用して計算した予想数値に近い側面があると理解すると腑に落ちるかもしれません。
収益還元法以外の評価算定
なお、収益還元法による評価では相当高い金額になるケースもあるため、各種計算方法を試して算出された金額の間を取るといったバランス調整をするのも有効な方法です。
遺産分割を円滑に進めるために、皆が納得しやすいバランスのとれた金額の設定が望ましいケースもあるでしょう。
相続税申告の場面で収益物件を評価したい場合の算定方法
相続税申告の場面では、通達(行政機関における指揮・命令)に従って、遺産の価格が決定します。
通常の不動産なら、土地は「路線価もしくは倍率方式による計算」を、建物は「固定資産税評価額」を使用するのが原則です。
収益物件は評価を減額して計算できる
収益物件の場合は、第三者へ使用させるため所有権に制限がある不動産である点を考慮して、評価を減額して計算する方法も定められています。
相続税の負担を少なくするため、正確に計算して申告できた方が望ましいでしょう。
収益物件を減額評価する場合の具体的な算定方法
具体的には、建物の評価として、貸家(他人に建物を貸している)の場合には、固定資産税評価額から借家権割合(近年は全国一律30%)によって減額(※)するのが認められています。入居率(賃貸割合)によっての調整もなされ、入居率が高いほど減額可能です。
また、貸家建付地の場合に、一定の計算式(※)による減額が認められています。
※参照:「土地家屋の評価」/国税庁
※参照:「貸家建付地の評価」/国税庁
評価方法が複雑な点以外で、収益物件の相続で揉め事になりやすい点
評価方法以外にも、収益物件を相続する際に判断が難しい点や、揉め事や問題になりやすい点についていくつか紹介します。
遺産分割終了までの賃料の帰属は誰にあるか把握すべき
遺産分割協議で特定の相続人が収益物件を所有する決定がなされた場合でも、一定期間の賃料は、法定相続人全員が相続分に応じて取得できる点に注意しましょう。
相続開始後、遺産分割協議が整う前の期間に発生した賃料については、判例(最高裁平成17年9月8日判決)により、相続分に応じて法定相続人に帰属するとされています。
ローンが残っている場合は金融機関に相談すべき
ローンなどの債務は遺産分割の対象とならないのが原則。
遺産分割協議で収益物件を特定の相続人所有と決定しただけでは、ローン返済義務は共同相続人全員に承継されてしまう点に注意しなければいけません。
収益物件を相続する特定の相続人に、ローン返済義務を承継させたい場合は、基本的には金融機関の承諾を得て新たに契約する必要があるのです。
居住用の住宅ローンであれば、団体生命信用保険に入っており、相続の際にローン完済となるほうが多いでしょう。ところが、収益物件のローンは相続の際に債務が残ってしまう場合も多いのです。
ローンが残る収益物件の相続の際には、お金を借りている金融機関に相談し、債務の引受に同意してもらえるか確認するようにしましょう。
借地権が関係する場合には更に難しくなるケースも考慮すべき
収益物件が借地権付きアパートなどで借地権が関係する場合、評価方法は更に難しくなります。
法律上、建物を建てる借地権者は強く保護されるケースがあり、借地権の負担のある土地(貸宅地)の価値を考える際には、負担がどれくらいかを具体的に考慮する必要があるのです。
たとえば相続税申告では、普通の借地権や定期借地権などの種類に応じた計算(※)が必要です。とくに定期借地権の計算には専門的知識を要します。
また鑑定する場合も、借地権の取引慣行の成熟度や契約の期間、将来的な賃料改定の実現性などを総合的に勘案して借地権の価格を決定していくのです。
地主への配慮が必要な場面や、遺産分割方法によっては地主の承諾を要するケースもある点にも注意が必要です。
相続人間で評価に関する意見が割れて揉めそうなケースでは、早い段階で専門家の力を借りた方がスムーズに解決できるかもしれません。
※参照:「借地権の評価」/国税庁
収益物件の相続では、弁護士への相談・鑑定の利用を視野に入れよう
収益物件の価格を収益還元法に基づいて計算するところまで合意したとしても、計算をする人によって金額の相違がある可能性もあります。
収益物件の評価金額で共同相続人間が揉めそうな場合や、多数の賃貸借契約が存在する収益物件の場合には、早い段階で法律の専門家である弁護士へ相談し、対策を検討しましょう。
一方で、相続人全員が納得するために、特定の不動産鑑定士に収益物件の鑑定を依頼し、出された鑑定金額を利用して決めてしまう方法もあります。
どの方法を選択するかについても検討が必要であり、知識が豊富な専門家へ相談したほうがよいでしょう。