遺留分を増やしたい場合にはどうすべきか
遺留分(※関連記事参照)とは、人が亡くなった際の被相続人の遺産につき、子供や配偶者、父母といった一定の法定相続人に、最低限の遺産金額の受領を保障する制度です。
遺留分を増やし、なるべく多くの金額を受け取るには何に気を付けたらいいかについて、紹介していきましょう。
保障される遺留分額の計算式
遺留分権利者(=遺留分を請求できる人)に保障される金額の計算方法を確認すると、遺留分を増やす方法が見えてきます。
遺留分権利者に具体的に保障される遺留分額は、以下の計算方法でざっくりと求められます。
具体的遺留分額=「遺留分額計算のための基礎財産の額」×「遺留分割合」
また遺留分額計算のための基礎財産の額は、以下の方法で求められます。
遺留分額計算のための基礎財産の額=「死亡時のプラスの財産(相続財産)」+「一定の贈与(特別受益など)された財産」-「死亡時のマイナスの財産(負債)」
遺留分額を増やす有効な方法
遺留分割合は、法定されており基本的には変わりません。よって、遺留分額を増やすには、基礎財産の額を増やす必要があるのです。そのためには、以下2つの点が重要になります。
<1>プラスに評価される相続財産と生前贈与(特別受益など)を見逃さない
基礎財産の額を増やすには、プラスに評価される相続財産と生前贈与(特別受益など)を見逃さないことが有効です。負債の金額を正確に把握し、不当に高く計算されないようにするのも重要です。
<2>相続財産の時価評価を正確に行う
また、相続財産の時価評価を正確に行うのも、効果が高い方法となります。
遺留分の計算における財産額は、相続開始時の時価(実際に取引をした際に売れる価格)です。しかし不動産などは低い金額で評価されてしまう可能性も考えられます。
財産の評価を見直し、価値が高い財産を正確に評価すれば、遺留分額が増えるかもしれません。
時効などの注意点は確実に押さえておこう
遺留分を侵害する行為や相続の事実を知ってから1年の時効期間が経過してしまうと、遺留分額の増加どころか請求自体が認められなくなる可能性があります。
すみやかに請求して時効完成を防ぐ必要がある点は押さえておきましょう。
遺留分は、多く財産を受け取った方に金銭を請求する遺留分侵害額請求権を行使する形で実現させます。
請求の仕方については多くの注意点がありますので、以下の遺留分侵害額請求についてのコラムも参考にしてみてください。
関連記事:遺留分侵害額請求とは?遺留分制度や対象となる財産、計算方法、請求手順や注意点などを分かりやすく解説
【遺留分を増やすために①】相続財産と生前贈与(特別受益)を詳細に調査して加算可能な財産を増やす
遺留分額を増やすには、プラスに評価される相続財産と生前贈与(特別受益など)を見逃さず、加算できる対象財産を増やす方法が有効です。
そのためには、詳細な調査により、隠れている財産や贈与を見つけ出し、加算可能な生前贈与についても正確に判断する必要があります。
詳細な調査で隠れた相続財産を見つける
隠れた財産として「現金・不動産・有価証券・宝石や時計などの貴重品・車・第三者に対する債権」など、あらゆる細かい財産を見逃さずリストアップしましょう。
小さい額でも積み重ね相続財産に加えれば、財産額が増える可能性があります。地道に詳細な調査が必要です。
加算できる生前贈与を見逃さない
すべての生前贈与が加算できるわけではありません。加算できる贈与かどうか判断が必要です。加算できる贈与は、大きく3つに分類されます。
なお、死因贈与(※贈与者の死亡を条件とする贈与契約)は、当然に相続財産として加算されます。
<1>1年以内に行われた第三者に対する贈与
相続開始前1年以内に行われた、相続人以外の第三者への贈与財産額について加算します。
具体例としては、内縁の妻や相続人ではない孫に、金銭を贈与する場合などがあるでしょう。
<2>10年以内に行われた相続人に対する贈与で、特別受益に該当する贈与
相続開始前10年以内に行われた、相続人への特別受益に該当する贈与額について加算します。
特別受益とは、養子・婚姻・生計の資本として(通常の扶養を超える贈与かどうかが判断基準とされる)一部の相続人に特別に贈与された財産です。
具体例としては、養子縁組や婚姻費用のための金銭贈与・住宅資金の援助・居住不動産の贈与・高額なローンの肩代りなどが該当します。
特別受益にあたるかどうかの判断に迷う場合は専門家に相談しましょう。
<3>遺留分権利者を害すると知ってなされた贈与
贈与者と受贈者が遺留分権利者を害すると知って贈与した場合は、時期に関わらず加算可能とされています。
客観的に「遺留分権利者に損害を与えると知っていたと言えるか」の判断には、さまざまな要因が関係します。
判断材料として、財産が今後増加しないと認識していたか、額の大きさや財産の中で割合の大きさを認識していたか、時期や贈与者の健康状態など状況を考慮する必要があるでしょう。
基準は明確とは言えず、争いになった場合に主張できるかの判断が難しいため、専門家である弁護士に相談が必要なケースと考えられます。
贈与と同視される無償行為なども見逃さず計算する
贈与が分かりやすい契約の形で結ばれていなくとも、贈与と同視される行為がなされた場合は、遺留分の基礎財産に加算できる可能性があります。例えば、1,000万円の貸付金を無償で免除したり、共有不動産の共有持分を無償で放棄したりする行為が、贈与と同視できるケースがあるのです。
また、1,000万円の価値の不動産を300万円で売却するといった不相当な対価による有償行為がなされた際に、当事者双方が遺留分権利者を害すると知っている場合には、負担付き贈与とみなし、700万円部分につき基礎財産に加算できるとする規定もあります。贈与と同視される無償行為や、不相当な対価による有償行為がないかどうかにも目を配りましょう。
【遺留分を増やすために②】価値が高い財産を、時価で正確に評価する
遺留分額の算定の際は、財産は相続開始時の時価(=取引価格)で評価するとされています。遺産分割協議の場面などで揉めないケースは、相続人間で自由に評価額を決めて構わないので、相続財産は低い金額で評価されているかもしれません。
遺留分額を増やしたい場合は、正確な時価での財産評価を主張すべきです。
特に不動産や未上場株は低い金額で評価される可能性があり、時価の算定で争いになりやすい財産でもあるため、以下で個別に解説します。
不動産の時価評価を徹底する
相続人間の話し合いにおいて、路線価や固定資産税評価額を参考にして不動産の価格を決定するケースがあります。
しかし、路線価や固定資産税評価額によると、時価の60%から70%程度の低い金額で不動産価額が計算されてしまう恐れがあるのです。
複数の不動産会社の査定を利用したり、不動産鑑定士の鑑定を利用したりして、時価で評価するように徹底すると、不動産の評価金額は増加する可能性があるでしょう。
収益不動産は特に厳密に評価する
賃貸収入を目的とする不動産である収益不動産の時価については、特に厳密に評価する意識を持ちましょう。
収益不動産は、将来もたらされる収益がどれくらいかを詳細に算定しなければ、正確な価値を測れない財産です。
収益還元法と呼ばれる、将来生み出される利益から価値を算定する手法を用いて計算しましょう。
似た物件の取引価格は存在しないため、取引事例比較により時価を算定するのが得意な不動産会社の査定とは相性が悪い可能性があります。不動産鑑定士による鑑定の利用を視野に入れ、厳密に評価するとよいでしょう。
非上場株の評価を厳密に行う
非上場株は、遺産の分割や相続税申告の際に会社規模に応じた計算方法で低い金額で評価されている可能性があり、評価方法の見直しの効果があるかもしれません。
とはいえ、非上場株の時価の評価方法は、簡単で明確な基準があるとは言えず、揉めやすい部分です。
客観的な時価の算定には専門的知識が必要であり、公認会計士などの専門家に時価評価を依頼するのがおすすめです。
各会社の個別事情に応じて以下の三つの計算方法を組み合わせ、バランスを取った金額を時価とするケースが多いでしょう。
<1>会社の純資産額から価値を導く計算方法(ネットアセットアプローチ)
<2>収益や配当の予測から価値を導く計算方法(インカムアプローチ)
<3>類似した上場会社との比較などから市場価値を導く計算方法(マーケットアプローチ)
遺言や遺留分に不満がある場合は早めに相談を。どう行動すべきか総合的に判断しよう
自分には財産を残してもらえない不安があり、将来の遺留分請求もありえると考えている方は、早くから生前贈与に目を向け、証拠を残す意識を持つとよいでしょう。
また、専門家である弁護士に早めに相談し、アドバイスを求めると役立つかもしれません。
遺留分侵害額請求で専門家を利用する場合は、調査や代理、鑑定のための専門家費用がかかる可能性があります。
手元に財産をなるべく多く残したい場合は、取得できそうな遺留分侵害額と負担するであろう専門家費用を総合的に判断し、どう行動するか・専門家に依頼するかどうかを決めていく必要があるでしょう。
具体的にかかる費用、自分で手続きを行った場合の労力を確認するためにも、まずは一度相談してみてはいかがでしょうか。