相続税申告で使う借地権評価額の計算方法
借地権の評価は、まず相続税申告の基準となる計算方法を理解することが第一歩です。相続税申告における借地権の評価は、原則として「路線価方式」によって行われます。遺産分割の実務においても、国税庁が公表している路線価図に記載された借地権割合を参照して評価額を算定するケースが一般的です。路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額です。
路線価とは、道路に面する標準的な宅地について定められた、1平方メートル当たりの価額を指します。各道路ごとに設定されており、土地の評価の出発点となる重要な指標です。
この路線価方式を用いて借地権を評価する場合、基本となる計算式は次のとおりです。
借地権評価額 = 自用地としての評価額 × 借地権割合
ステップ1:「自用地としての評価額」を調べる

引用:路線価図の説明/国税庁
まず、その土地が借地ではなく、自用地(完全な所有権がある土地)であった場合の評価額を算出します。国税庁が公表している「財産評価基準書 路線価図」を確認し、当該土地が面している道路の路線価(1平方メートル当たりの価額)を把握します。その路線価に土地の面積を掛けることで、自用地としての評価額を求めます。
【例】
路線価30万円/平方メートル、土地面積200平方メートルの場合
自用地としての評価額:30万円 × 200平方メートル = 6,000万円
ステップ2:「借地権割合」を確認する
路線価図には、地域ごとにA(90%)〜G(30%)の記号で借地権割合が定められています。路線価図の右側に記号ごとの割合が書かれているため、確認してください。
たとえば、路線価図で「330C」の表記で道路に数字と記号が振られているときは、「330」は1平方メートルあたりの路線価33万円、そして末尾の記号「C」に対応する借地権割合は70%です。
ステップ3:借地権評価額を計算する
最後に、ステップ1で算出した「自用地としての評価額」と、ステップ2の「借地権割合」を掛け合わせます。
【例】
先ほど計算した「自用地としての評価額」6,000万円、「借地権割合」70%の場合。
借地権評価額:6,000万円 × 70% = 4,200万円
関連記事:遺産分割における不動産の評価方法・価格の決め方とは?判断材料やトラブルになりやすいケースを解説
評価額に影響する借地権の種類や関連する権利
借地権の評価額は、単に土地を借りているという事実だけで決まるものではありません。
借地権は、契約が締結された時期、相手方、契約内容によって評価の考え方も変わる場合があります。
そのため、借地権の評価を行う際には、土地の賃貸借契約書や登記事項証明書(登記簿謄本)を確認し、借地権の内容を正確に把握することが不可欠です。。
普通借地権(旧法借地権を含む)
地主側に契約を更新しない正当な理由がない限り、契約更新が原則として認められます。そのため、借主の権利が強く保護された借地権といえます。多くの場合、前章で解説した路線価方式で評価するのが一般的です。
定期借地権
契約期間が満了すると、地主に返還することが定められた借地権です。定期借地契約では、契約が更新されない場合に、建物の所有者が地主に対して建物の買取を請求することのできる権利(建物買取請求権)を行使しない旨の特約を結ぶことができます。そのため、土地の借主は、契約満了時点で、更地にした状態で土地を返還しなければなりません。
更新がないため、相続が発生した時点での「残存期間」が短いほど、評価額は低くなります。評価方法は個別性が高いため、専門家への相談が必要といえるでしょう。
借地権と関連性がある使用貸借権
土地に関する使用貸借権は、地代を支払うことなく、土地を利用することのできる権利です。借地権とは異なり、無償での土地使用権です。もっとも、契約期間の満了とともに土地を更地にして地主に返還する必要があります。また、借主はいつでも契約を解除することができ、地主も契約において期間や土地の使用目的を定めていなかったときは、いつでも契約を解除することができます。
土地の使用貸借については、上記のとおり借主が無償で土地を使用できるという特性があるため、借地借家法に基づく借地権や定期借地権等は設定されません。そのため、相続税評価をする際において、借地権に基づく土地への利用制限とは評価されないことも多いです。ただ、実際には土地の使用貸借が長期に及ぶこともあり、このような場合には使用貸借権が一定程度考慮される余地はあります。
賃借権と地上権の違い
借地権には法律上、賃借権と地上権の2種類があります。
【賃借権】土地の使用・収益をする対価として賃料を支払うことを約束する賃貸借契約に基づく権利です。借地権の存続期間は30年とされていますが、当事者間でこれより長い期間を設定することもできます。そして、原則として、契約の更新が認められますが、地主の承諾なしに売却や転貸ができません。
賃借権について登記を行うことができますが、地主がこれに協力する義務を負うわけではありません。もっとも、借地上の建物に登記を行うことで借地権を第三者に対抗することができる上に、この登記は建物の所有者のみで行うことができます。
【地上権】他人の土地で工作物や竹林を所有するために土地を利用する権利を指します。地主の承諾がなくても自由に売却や転貸、担保設定ができる、所有権に近い強力な権利といえます。地上権の存続期間は契約で自由に定められ、定めがない場合は裁判所が20年以上50年以下で決定します。
登記も可能であり、地主は登記に協力する義務を負います。
賃借権と地上権は、登記の方法や譲渡・転貸の自由度が異なります。一般的に、より権利の強い「地上権」の方が評価額は高いです。

相続後に発生する手続きと地主との交渉ポイント
借地権を相続したときは、相続人同士で合意をした後に、地主への対応が必要になります。ここからは、地主への対応や交渉する際のポイントについて見ていきましょう。
地主への報告は必須
相続による借地権の取得は、被相続人の権利・義務をすべて引き継ぐ「一般承継」にあたるため、地主の承諾は法的には不要です。一般承継とは、権利や義務を包括的に(すべてまとめて)受け継ぐことです。
しかし、地主は「誰が新しい借主になり、地代を支払うのか」を知る必要があります。地主との今後の良好な関係を維持するためにも、相続が発生した旨は速やかに報告し、新しい地代の支払方法などを話し合っておくべきです。
名義変更承諾料の支払い(建替・譲渡時)
被相続人から相続した借地上の建物や借地権を第三者に譲渡する場合、原則として地主の承諾が必要となります。また、借地上の建物を建て替える場合も、地主の承諾を要するのが通常です。これは、借地契約において「増築禁止特約」が付されていることが多いためです。増築禁止特約とは、地主の承諾なく借地上の建物の建て替え(増改築を含む)を行うことを禁止し、建て替え等を行う場合には事前に地主の承諾を得ることを求める条項をいいます。
そして、地主が借地上の建物の譲渡や建て替えを承諾した場合には、名義変更承諾料や建替承諾料の支払いを求められることがあります。さらに、借地権そのものの譲渡が認められる場合には、譲渡承諾料の支払いが求められることもあります。もっとも、これらの承諾料には法律上の明確な根拠があるわけではなく、実務上の慣行・地域慣習に基づくものです。
一般的な相場としては、名義変更承諾料・譲渡承諾料が借地権価格の約10%程度、建替承諾料が更地価格の約3〜5%程度とされることが多いですが、あくまで目安にすぎません。最終的な金額は、契約内容や地域の慣行、当事者間の事情等を踏まえ、借主と地主との交渉により決定されます。
借地権相続でよくあるトラブルと弁護士の役割
借地権は、評価方法や法的性質が複雑であるため、相続の場面ではトラブルの原因になりやすい財産です。適切に整理しないまま協議を進めると、相続人間の対立が深まり、手続きが長期化するおそれがあります。こうした紛争を円滑に解決するためには、法律と不動産実務の双方に通じた弁護士の関与が重要となります。
遺産分割でのトラブル
借地権をめぐる典型的な問題の一つが、評価額のズレです。相続税申告に用いられる相続税評価額と、実際に売却した場合の時価(市場価格)は一致しないことが多く、この差が遺産分割協議における紛争の火種となります。
具体的には、誰が借地権(または借地権付の建物)を相続するのか、借地権を取得する相続人が、他の相続人に支払う代償金をいくらにするのか、といった点で意見が対立しやすくなります。不動産に関する専門知識がなければ、時価を踏まえた公平な代償金額を算定することは容易ではありません。その結果、評価の前提自体について争いが生じ、協議がまとまらなければ、相続手続き全体が事実上ストップしてしまうこともあります。
たとえば、長男が借地権を相続する一方で、他の相続財産だけでは代償金を十分に賄えず、代償金を受け取る立場の次男が金額の増額を強く主張するといったケースが典型例です。このような場面では、借地権の評価額が適正かどうかを判断するための専門的な検討が不可欠となります。
さらに、借地権が相続人間で共有状態となっている場合には、共有者間の意思統一が困難となり、建て替えや売却などの土地活用が進まないケースも少なくありません。
地主とのトラブル
地主との関係が悪化すると、将来の契約更新や建て替え、売却といった重要な局面において、支障が生じるおそれがあります。具体的には、法外な額の承諾料を要求されたり、合理的な理由がないにもかかわらず承諾を拒否されたりするケースも見受けられます。
このように、将来的に承諾料の支払いが事実上避けられない状況にある場合には、その負担を無視して借地権を評価することが適切でない場面もあり得ます。承諾料等の支払いが見込まれるのであれば、その点を考慮して、借地権の評価額を調整すべきケースも考えられるでしょう。
名義変更承諾料や建替承諾料などは、法律上当然に支払い義務が認められているものではありません。しかし、長年の取引慣行や地域の実情から、実務上は支払いを求められることが多く、場合によっては借地権を円滑に維持・活用するために事実上必要となることもあります。
そのため、借地権の相続や遺産分割を進めるにあたっては、評価額の数字だけで判断するのではなく、地主との関係性や将来想定される負担も含めて総合的に検討することが重要です。専門家の助言を得ながら、現実的な解決を図ることが、後日のトラブルを防ぐことにつながります。
借地権相続で弁護士ができること
相続の専門家である弁護士であれば、親族との遺産分割や地主とのトラブルを解消に導きます。紛争の火種が大きくなる前に、弁護士に相談してください。
<借地権相続で弁護士がサポートできる内容>
| サポート内容 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 遺産分割協議の代理交渉 | 借地権の有無及びその評価額を適切に考慮した上で、法的根拠に基づき、依頼者が不利にならないよう他の相続人と交渉する。 |
| 地主との関係整理、(必要に応じた)交渉代理 | 承諾料の必要性等を踏まえた上で借地権を評価。必要に応じて、承諾料等の減額交渉や、正当な理由がないにもかかわらず土地の譲渡を承諾してもらえない場合の交渉を行う。 |
| 調停・訴訟への対応 | 話し合いで解決しない場合、法的手続きで依頼者の権利を守る。 |
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借地権の相続は、事案によっては、税務の知識、不動産の知識、そして法律の知識が求められる難解なケースに発展することもあります。相続人同士で意見が対立し、遺産分割協議がなかなかまとまらないまま、気が付けば相続開始から2年、3年と時間だけが経過してしまう、といったケースは決して珍しくありません。
また、相続人間の問題に加えて、地主との関係が絡むことで、事態がさらに複雑化することもあります。一度関係がこじれてしまうと、その後の更新や建て替え、売却にまで影響が及びかねません。
相続人間や地主との間でトラブルが生じている場合には、できるだけ早い段階で法律事務所に相談することが、円満かつ現実的な解決への近道となります。問題が深刻化する前に、法的な整理を行うことで、無用な対立や長期化を防ぐことができます。
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