これって遺産隠し?使い込みを疑うべき兆候と放置するリスク
「他の相続人が、遺産の詳しい内容をなかなか教えてくれない…」
「生前の親の暮らしぶりに比べて、遺産の額がどうも少ない気がする…」
こうした疑いを心に抱いたままでは、到底、公平な遺産分けは望めません。もし財産隠しや使い込みの事実に気づかずに合意してしまうと、あなたが本来受け取るべき正当な財産が侵害されるばかりか、後から相続税の申告漏れを指摘され、ペナルティが課される危険性さえあります。
少しでも不審な点を感じたら、まずは以下のチェックリストで状況を整理してみてください。もし複数当てはまるようでしたら、お早めに弁護士へ相談するようお勧めします。
1.財産の全体像が不透明である。特定の相続人だけが財産を管理しており、他の相続人に詳細な財産目録などを開示しない。
2.生前の資産状況と比べて遺産が明らかに少ない。 生前の収入や資産状況から予測される遺産額と、実際に提示された額に大きな隔たりがある。
3.情報開示に協力的ではない 預貯金の残高証明書や不動産の権利証など、財産に関する資料の開示を求めても、理由をつけて拒否したり、はぐらかしたりする。
4.説明が曖昧・矛盾している。 遺産や遺言書の内容について質問しても、曖昧な説明しかしない、または以前と話が変わるなど、説明内容に矛盾がある。
5.生前に多額の出金がある。 亡くなる直前の時期に、被相続人の預金口座から多額の現金が何度も引き出されている形跡がある。
6.不動産などが勝手に処分されている。 相続開始後に、他の相続人の同意なく不動産の名義が変更されていたり、売却の準備が進められたりしている。
7.重要書類の所在が不明 通帳、キャッシュカード、不動産の権利証(登記識別情報)、保険証券といった財産の重要書類が見当たらない、または特定の相続人が隠している。
8.遺産分割を異常に急かしてくる。 財産の詳細な説明をしないまま、「早く遺産分割協議書に署名・押印してほしい」などと、合意を不自然に急いでくる。
これらの兆候が見られる場合、安易に合意してはいけません。弁護士は、金融機関への取引履歴の開示請求(弁護士会照会)など、法的な調査権限を活用して財産の全容解明を目指します。 一人で悩まず、まずは専門家に相談し、真実を明らかにするための一歩を踏み出しましょう。
関連記事:親族による遺産隠しが疑われるケースにどう対応する?遺産の調査方法と遺産分割協議のやり直しの注意点とは
遺産隠し・使い込み疑惑、弁護士は何をしてくれる?
遺産隠しや使い込みが疑われる場合、その事実を明らかにするためには客観的な証拠が必要です。弁護士にご依頼いただければ、その専門的な知識と法的な権限を駆使して、徹底的な財産調査と証拠収集を行い、あなたの権利を守るための土台を築きます。
弁護士の権限を活かした「財産調査」で全体像を解明
ご自身での財産調査には限界がありますが、弁護士は「弁護士会照会(弁護士法23条の2)」という法律で認められた強力な調査権限を持っています。この制度を活用し、金融機関や証券会社、保険会社などへ必要な情報の開示を請求できます。
弁護士が具体的にどのような財産調査を行うのか、詳しく見ていきましょう。
・被相続者名義、疑わしい相続人名義の預貯金口座に対する取引履歴の開示請求
・不動産の登記簿謄本の取得
・名寄帳※の取得
・有価証券や保険契約の調査
※土地や建物を所有者ごとに一覧表としてまとめた書類
預貯金口座の取引履歴調査
被相続人名義の口座について、亡くなる前の数年分の取引履歴を取り寄せ、不自然な出金がないかを徹底的に調査します。なお、財産が不正に流れた疑いが強い場合は、他の相続人名義の口座についても調査をしたい場合もあるかと思いますが、これを行う場合には原則として民事訴訟が必要となります。
不動産の網羅的な調査
不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)の取得に加え、市区町村役場で「名寄帳(※)」も取得します。この名寄帳を調べれば、その自治体内に被相続人が所有する不動産を一覧で把握でき、隠された不動産がないかを確認できます。
※名寄帳:同一市町村区内にある土地や家屋といった固定資産を所有者ごとに一覧表としてまとめた書類。
有価証券・保険契約の調査
証券会社や保険会社に対し、被相続人名義での取引履歴や契約内容の照会を行い、株式、投資信託、生命保険といった金融資産の有無と内容を明らかにします。
法的に有効な「証拠収集」であなたの主張を裏付ける
財産の使い込みなどを主張するためには、憶測ではなく、法的に有効な証拠が不可欠です。弁護士は、徹底した調査を通じて、交渉や法的手続きを有利に進めるための証拠を収集・分析します。
弁護士が行う主な証拠収集・分析について解説していきましょう。
・関係者へのヒアリング
・過去の明細や帳簿の分析
・状況に応じた証拠の保全
取引履歴・帳簿等の詳細な分析
取り寄せた預貯金の取引履歴や、被相続人が事業を営んでいた場合の帳簿などを精査し、使途不明金や不自然な資金の動きを洗い出します。
関係者へのヒアリング
必要に応じて、事情を知っている可能性のある親族や関係者から話を聞き、有益な情報を収集します。
証拠保全の手続き
相手方が証拠を隠したり、破棄したりする恐れがある場合には、裁判所に対して「証拠保全」の申立てを行い、証拠が失われるのを防ぐための法的手続きを取ることも可能です。
弁護士依頼の際の費用に関する注意点
弁護士に調査と証拠収集を任せれば、ご自身の時間と労力を大幅に節約できるのはもちろん、専門的な知見に基づいた的確なアプローチで、問題解決への道筋を立てられると期待できます。
弁護士に依頼する場合の費用は、事案の難易度や調査範囲によって異なります。具体的な費用については、法律相談の際に、各法律事務所へ直接お問い合わせください。
遺産隠し・使い込みが判明!財産を取り戻すための5つの法的手段
遺産の使い込みや財産隠しが明らかになった場合でも、泣き寝入りする必要はありません。弁護士と連携すれば、以下のような法的な手段を通じて、ご自身の正当な権利を主張できます。
各手続きの概要と、特に重要な「時効」を解説しましょう。
【1】遺産の開示請求
まず、財産を管理している相続人へ、弁護士の名前で内容証明郵便を送付するなどして、全遺産の情報開示を求めます。これは、本格的な交渉や法的手続きへ進む前の重要な第一歩です。
法的な専門家である弁護士を通して請求すれば、相手方が真摯に対応し、自ら情報を開示する可能性も高まります。
【2】不当利得返還請求
不当利得返還請求とは、不正に取得した遺産の返還を求める法的な請求です。法律上の正当な理由なくして利益を得た人に対して、損失を被った人が当該利益を返還するよう求める法的な手続きです。
なお不当利得返還請求の時効は、権利行使できると知ったとき(使い込みを知った時)から5年、または権利が発生したとき(使い込みがあったとき)から10年間です。いずれか早い期間が経過すると時効消滅します。
残高証明書の取得といった証拠調査には時間がかかるため、時効を迎えてしまい、請求できなくなる前に早めに手続きを進めましょう。
【3】不法行為に基づく損害賠償請求
遺産の使い込みは、他人の財産権を侵害する「不法行為」にあたります。これによって被った損害の賠償を請求することも可能です。
なお、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は、損害及び加害者を知った時(特定の相続人が使い込みをして損害が発生した事実を知った時)から3年、又は不法行為を行った時(使い込み行為を行った時)から20年を経過すると時効により消滅します。
※不当利得返還請求と損害賠償請求は、事案によってどちらか一方、あるいは両方を主張できる場合があります。どちらの請求を行うべきか、時効はいつまでかといった判断は専門的知識を要するため、弁護士にご相談ください。
【4】遺産分割調停・審判での主張
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てられます。この調停の場で遺産の使い込みの事実を主張し、使い込まれた財産を「特別受益」(相続人の中の一人が、被相続人から生前にもらったお金や財産(婚姻、養子縁組又は生計の資本のための贈与です)に準じて遺産へ持ち戻し計算するよう求めれば、実質的に公平な遺産分割を目指せます。
調停で合意に至らない場合は、自動的に「遺産分割審判」に移行し、最終的に裁判官が判断を下します。
【5】刑事告訴
極めて悪質なケースでは、横領罪や窃盗罪などで警察に「刑事告訴」するのも選択肢の一つです。ただし、いくつかの点で注意が必要です。
刑事告訴は相手方へ強いプレッシャーを与える一方、親族関係の修復を困難にする可能性もあるでしょう。実行する際は、弁護士と慎重に検討する必要があります。
親族相盗例の適用
配偶者、直系血族(親子、祖父母と孫など)、同居の親族の間で起きた横領や窃盗などの財産犯は、「親族相盗例」という法律により、刑が免除されます。
また、上記親族以外の親族との間で起きた横領や窃盗についても、告訴がなければ処罰対象になりません。
民事責任との違い
刑が免除されても、財産を返還する民事上の義務はなくなりません。 財産を取り戻すためには、別途、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求などの民事手続きが必要です。
関連記事:遺産の使い込みに気づいたら、どう対処する?一般的に必要な調査や裁判所手続き、時効などの注意点を解説
遺産隠し・使い込みで泣き寝入りしない!早期相談と弁護士選びが解決の鍵
親族間で遺産の使い込みや財産隠しの問題を解決しようとしても、相手にされなかったり、感情的な反論に疲弊してしまったりして、泣き寝入りに至るケースは少なくありません。中には、紛争から逃れたい一心で、本来受け取れるはずの財産まで全て手放す「相続放棄」を選んでしまう方もいらっしゃいます。
しかし、あなたの正当な権利を諦める必要はありません。円満かつ公平な解決を目指すためにも、信頼できる弁護士への早期相談が極めて重要です。
なぜ「早期相談」が重要なのか?時間を味方につける3つのメリット
遺産の使い込み問題は、時間が経つほど解決が難しくなります。早期に弁護士へ相談すると、大きく3つのメリットが期待できます。
・家族が不正をした証拠の散逸を防ぐ
・適切な法的アドバイスを早期に得られる
・精神的な負担を軽減できる
重要な証拠の散逸を防ぐ
預貯金の取引履歴など、使い込みを証明する証拠は、金融機関での保存期間が過ぎると入手が困難になります。弁護士に早く依頼することで、証拠が失われる前に確保(弁護士会照会等)できる可能性が高まります。
「時効」のリスクを回避する
使い込まれた遺産を取り戻す権利(不当利得返還請求権など)には、「権利を行使できることを知った時から5年」などの時効があります。気づいた時には手遅れ、という事態を避けるためにも、迅速な行動が不可欠です。
精神的な負担を早期に軽減する
一人で悩み続ける時間は、精神的に大きな負担となります。早期に弁護士に依頼し、調査や交渉を任せることで、あなたはその重圧から解放され、解決までの道のりを安心して歩むことができます。
信頼できる弁護士を見つけるための4つのチェックポイント
相続問題は、ご家庭のプライベートな情報を深くお話しいただくため、弁護士との信頼関係が何よりも大切です。
弁護士への相談は、多くの法律事務所で公式ウェブサイトの問い合わせフォームや電話で予約できます。事務所によっては初回の相談を無料で実施しているところもありますので、まずはそうした機会を活用し、信頼できる専門家を探し始めてみてはいかがでしょうか。
4つのポイントを参考に、あなたに合ったパートナーを見つけましょう。
・遺産相続トラブル、特に遺産調査や不正行為に関する実績が豊富か
・親身になって話を聞き、丁寧な説明をしてくれるか
・費用体系が明確で、納得できるか
・弁護士との相性が悪くないか
<POINT 1>専門性と実績
相続トラブル、特に遺産調査や不正行為の追及に関する解決実績が豊富か、法律事務所のウェブサイトなどで確認しましょう。
<POINT 2>コミュニケーションの質
あなたの話を親身に聞き、難しい法律用語も分かりやすく丁寧に説明してくれるか、初回相談などで確かめましょう。
<POINT 3>費用体系の明確さ
依頼した場合にどのような費用が、いつ、どのくらいかかるのか、事前に明確な説明と見積もりを提示してくれるか確認は必須です。
<POINT 4>あなたとの相性
最終的には、あなたが「この人になら安心して任せられる」と感じられるかどうかが重要です。複数の弁護士と話してみるのも良いでしょう。
遺産隠し・使い込みの疑念は、弁護士相談で解決への一歩を
「もしかしたら遺産を使い込まれているかもしれない…」
そのような疑いを抱えながら親族と向き合うのは、精神的に大きな負担となります。相続問題は感情が絡みやすく、時間が経つほど解決が難しくなるため、一人で悩まずに専門家へ相談するのが重要です。
遺産隠しや使い込みの疑いがある場合、弁護士にご相談いただければ、解決への道筋が見えてきます。弁護士は、法的な権限を活かした財産調査や証拠収集から、相手方との交渉、そして調停や訴訟といった法的手続きまで、一貫してあなたをサポートします。自力では困難な問題にも、専門的な知見をもって的確な解決策を提案し、あなたの正当な権利の実現を目指します。
また、複雑な相続案件では、相続税の申告も重要な課題です。弁護士は、必要に応じて税理士と緊密に連携し、調査結果に基づいた正確な相続税申告まで、ワンストップでサポートできます。
専門家である弁護士への依頼は、法的な問題を解決するのはもちろん、あなたを疑念や交渉のストレスから解放し、心の平穏を取り戻す大きな助けとなるはずです。不信感を抱えたまま泣き寝入りする前に、まずは勇気を出してご相談ください。