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2024
09/02

遺産の使い込みは何を証明すれば取り戻せる?取り戻せない場合は?証明に必要な証拠の具体例を解説

相続発生時に頻発する遺産の使い込み問題は、多くの相続人を悩ませる深刻な課題となっています。被害を受けた相続人にとって、訴訟を通じて遺産を取り戻せる可能性があるケースかの見極めることが重要に。
具体的な事例分析を通じて自身の状況に当てはめ、訴訟に踏み切るべきかどうかの判断材料として活用できるでしょう。
また、勝訴の見込みを正確に判断するためには、訴訟で立証すべき事実、争点となりやすい論点、さらに有効な証拠資料について理解を深める必要があります。
預貯金の流用事例を題材に、遺産回復の実現性を判断する際に役立つ情報を詳しく解説していきます。遺産を取り戻す可能性を見極める一助となれば幸いです。

この記事の監修者

弁護士 山村真登

弁護士・ニューヨーク州弁護士

2013年12月
弁護士登録 山村忠夫法律事務所勤務開始
2018年5月
ニューヨーク大学ロースクール(New York University School of Law (アメリカ合衆国ニューヨーク州))LL.M修了
2019年10月
ニューヨーク州弁護士登録

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弁護士 山村真登
弁護士 山村真登

この記事の監修 :
弁護士 山村真登

これまで連載してきた通り、遺産の使い込みや使途不明金の問題は、紛争化しやすい問題であるといえます。そこで、今回は少し専門的な内容にあえて踏み込み、遺産の使い込みや使途不明金で揉めた場合にどのような審理がなされるのか、どのような証拠が必要になってくるのかをご説明致します。

この記事の監修 :
弁護士 山村真登

遺産相続問題は弁護士へ
相続の弁護士費用相場コラム

使い込まれた遺産を取り戻せる場合とは?訴訟で証明が必要な事実

遺産管理を任されていた相続人が、私的に遺産を流用してしまうケースは少なくありません。他の相続人は、不正に持ち出された財産を取り戻し、本来の遺産分割を行いたいと考えるでしょう。
遺産の流用問題における訴訟で、勝訴するために知っておくべきポイントについて解説しますので、ご自身のケースで勝訴できる可能性をある程度見当がつけられるはずです。
では、訴訟によって財産を取り戻すには、どのような状況であれば、どのような証拠が必要なのでしょうか。
まず、訴訟手続きの大まかな流れと、遺産の流用を立証するために必要な事実について説明します。その後、具体的な争点や、勝訴に必要な証拠について詳しく見ていきましょう。

一般的には話し合いで解決しない場合に訴訟手続きに入る

遺産を管理していた者が私的に遺産を使用した疑いがある場合、まずは話し合いによって解決を図る流れが一般的です。話し合いによって、相手が遺産の流用を認め、任意に返還したり、遺産分割協議で調整したりして解決できるケースもあります。
しかし話し合いがまとまらない場合は、裁判という手段も考えられます。一般的には、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求によって、不正に持ち出された財産を取り戻す方法を検討します。
ただし、相手が贈与を受けたという主張をする場合は、特別受益(※)の問題となります。この場合は、遺産分割調停や審判において、どのように遺産を分けるかについて話し合い、最終的に決定していくのです。

 

※特別受益とは、相続人の中の一人が、被相続人(亡くなった人)から生前にもらったお金や財産です。相続分を決める際に特別受益を考慮して、相続人全員が公平に遺産を分けられます。「婚姻、養子縁組または生計の資本のための贈与」が特別受益で、例えば、結婚の際に親からもらった持参金などが、特別受益にあたる場合があります。

不当利得や不法行為を主張する場合に立証すべき事実

遺産の使い込み問題で多く用いられる不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟。勝訴するためには、どのような事実を立証する必要があるのでしょうか?
ここでは、最も一般的な事例である預貯金の使い込みを例に、訴訟で主張し、証明しなければならない事実を具体的に解説します。

預貯金の使い込みを不当利得返還請求訴訟で主張し立証するには

不当利得返還請求訴訟では、以下の事実を立証する必要があります。

・被相続人が預貯金を持っていたこと
・相手方相続人がその預貯金を引き出したことによる損失が発生したこと
・相手方相続人がその引き出しによって利益を得たこと
・損失と利益の間に因果関係があること
・相手方相続人が法律上の正当な理由なく(預貯金の引き出し権限なく)利益を得ていること

預貯金の使い込みを不法行為に基づく損害賠償請求訴訟で主張し立証するには

一方、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟では、以下の事実を立証する必要があります。

・被相続人が預貯金を持っていたこと
・相手方相続人によって預貯金が引き出され、損害が発生したこと
・相手方相続人の行為が、故意または過失によるもので、被相続人の預貯金債権を侵害したこと

「不当利得返還請求訴訟」と「損害賠償請求訴訟」の共通点と違い

いずれの訴訟においても、被相続人の預貯金が存在し、相手方相続人による預貯金の引き出し、それによって生じた損害事実を明確にする必要があります。
不当利得返還請求訴訟では相手方相続人が法律上の正当な理由なく利益を得ていると、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟では相手方相続人の行為が故意または過失によるものであると立証する必要があるのです。
そして、どちらも事実を立証するためには、銀行口座の取引履歴、証言、その他の証拠を収集し、裁判所への提出が必須です。

遺産の使い込みなど家族間紛争の特殊性

家族間の遺産相続を巡る争いでは、厳格な立証責任が求められるとは限りません。特に遺産の使い込みなど家族間紛争についての訴訟では、立証責任(立証できず真偽不明になった場合に、自己に有利な法律効果や事実が認められなくなる不利益)はあまり重要視されないとの指摘があります。

 

家族間では、日々の生活費などについて、細かく領収書を保管する習慣がないことが多く、全ての取引を明確に証明することは難しいからです。そのため、裁判所は、両当事者の主張を総合的に判断し、より合理的な説明をしている側の主張を採択する傾向があるといえます。家族間・近い親族間の紛争では、裁判所が原告被告双方に対して真実解明に協力するように誘導して訴訟が進行するケースが多く、実際上、合理性のある説明ができた側の主張が採用されるという場合も多いといえます。つまり、裁判官を納得させる論理的な事実関係の説明(ストーリー)が重要となります。

 

とはいえ、証拠が重要であることは間違いなく、予想される相手方の反論は筋が通らないと判断できる証拠や、請求する側の主張が正しいと判断できる証拠の収集に注力することが重要です。

遺産使い込み訴訟の争点となる事実と証明に必要な証拠例

遺産を取り戻せるかどうかは、争点となる事実を証明できる証拠があるかどうかに大きく左右されます。具体的には、「誰が預金を引き出したのか」「引き出したお金を何に使ったのか」という点が主な争点となるでしょう。
裁判で争点となる事実と、勝訴するために必要な証拠について解説していきましょう。

出金者は誰かを証明する

預貯金の使い込み問題では、まず引き出し時期・金額・出金者の特定が必要です。
いつ、いくらのお金が引き出されたのかは、銀行の取引履歴を見ればわかります。しかし、誰が引き出したのかは、とくに相手方が関与を否定する場合、争いの焦点となるでしょう。

相手方相続人が引き出した関与を証明する

預貯金が不正に引き出されたことを立証するためには、誰が引き出したのかを明確にする必要があります。最も確実なのは、相手方がATMでキャッシュカードを使って引き出している写真や、相手方が書いた払戻依頼書といった、直接的な証拠です。
しかし、直接的な証拠が得られない場合でも、間接的な証拠を積み重ねれば、相手方の関与を推測できます。例えば、被相続人の健康状態が優れず、入院していたなどの記録があれば、被相続人自身が引き出した可能性は低くなります。
また、介護認定の調査票に相手方が金銭管理者として記載されている場合や、引き出した場所が相手方の行動範囲内である場合も、相手方の関与を疑う根拠となります。

 

総合的に判断できるよう間接的な証拠を集めていけば、裁判所は相手方の関与を認める可能性が高まっていくのです。

 

<こんな証拠を集めると有利>
・医療記録や介護記録から判明する健康状態や、入院していた事実から判断すると、被相続人が引き出したとは考えられない
・介護認定を受けている被相続人の認定調査票に、金銭の管理をする者として相手方相続人が載っている
・引き出した場所が被相続人の活動範囲内でなく、相手方相続人の活動範囲内である
…など

難しい使い込みの事実を立証する

続いて、引き出したお金を何に使ったかが争いとなります。
相手方は被相続人本人のために使ったなどと主張し、使い込みを認めないでしょう。
そのような場合、無断で引き出しただけでは利得が発生した・損害が発生したとは言えず、相手方相続人が、自分のためだけに使ったりお金を隠したりしたことについての証拠が重要となる場合があります。
使い込みを立証するには、引き出したお金がどこへ行ったのかを明らかにする必要があります。しかし、お金の動きは必ずしも明確に記録に残るとは限りません。

では、どのような場合に使い込みが認められる可能性が高まるのでしょうか。
例えば、被相続人の口座からお金が引き出された直後に、同額が相手方の口座に入金されていたり、生活費としては不自然に高額な引き出しが繰り返されていたりする場合には、使い込みが疑われます。また、被相続人が生前に使い込みに関する言及を日記や手紙に残していた場合も、有力な証拠となります。

 

<こんな証拠があると有利>
・被相続人の口座からの引き出し直後に、同額が相手方相続人の口座に入金されている
・生活費としては不自然に高額な出金がされ、用途や管理方法を相手方相続人が説明できない
・被相続人が生前使い込みの事実を把握し、日記や手紙、メモなどに残していた
…など

比較的証明しやすい死後の使い込みについて

死後の遺産の使い込みは、生前と比べて事実を明らかにしやすいケースが多いでしょう。
なぜなら、被相続人本人が財産を動かせないため、残された財産に変化があった場合、原因は他の相続人にあると推測できるからです。
例えば、ある相続人が「被相続人のために使った」と主張する場合も、葬儀費用や未払いの医療費といった、ある程度限定的な範囲を超える使い込みは、不正な行為とみなされる可能性が高いです。
このような状況なら、遺産分割協議の中で、不正に持ち出された財産の返還を請求できます。そのため死後の遺産の使い込みは、他のケースに比べ被害回復の見込みが高いと言えるでしょう。

使い込まれた遺産を取り戻せないケースとは

相続人が遺産を使い込んでしまった事実を証明できれば、法的に取り戻すことができる可能性は高いです。しかし、必ずしも全てのケースで遺産を取り戻せるわけではありません。
例えば、証拠が不十分なケースや、使い込んだ相手が財産を処分してしまったケースなどは、遺産を取り戻すのは困難です。また、時効が成立している場合も、請求できなくなる可能性があります。

証拠が不足するケースや少額の場合は使い込みが認められにくい

遺産の使い込みを立証するには、具体的な証拠が必要です。例えば、預金口座の取引履歴や、使い込まれた財産の所在を示す資料などが挙げられます。しかし、これらの証拠が不十分な場合や、相手方が「被相続人の生活費や医療費などに使用した」と主張した場合、裁判での勝訴は困難な可能性があるでしょう。
とくに、毎月10万円以下の少額の引き出しが長期にわたって繰り返されている場合、相手方の主張が認められやすく、遺産を取り戻すのは難しいケースが多いのです。
少額であれば生活費などに使われた可能性も考えられるため、個々の引き出しについて使い込みに当たるか否かの判断は困難になるでしょう。

時効期間が経過しているケースでは訴訟で遺産を取り戻せない

遺産の使い込みに気づいた場合は早急に対処することが重要であり、法律で定められた期間を過ぎると、時効によって権利を失ってしまう可能性があるのです。
例えば、不当利得返還請求権という権利は、使い込みを知った時から5年、または使い込みから10年を経過すると消滅します。
また、不法行為に基づく損害賠償請求権という権利は、特定の相続人が使い込みをして損害が発生した事実を知って3年、または使い込み行為から20年を経過すると消滅します。
時効期間を過ぎてしまうと、たとえ相手が不正に遺産を使い込んでいたとしても、裁判で取り戻すのは難しくなるため、訴訟前には時間が経過していないか確認が必須です。

相手方が財産を持っていないケースに注意

相手方が使い込んだ財産を浪費し、他にめぼしい財産を持っていないケースもあります。
勝訴できたとしても、相手が使い込んだ財産をすでに浪費し、支払い能力がない場合は、残念ながら実際に財産を取り戻すことは困難です。
訴訟を起こす前に、相手方の財産状況を十分に調査しておく必要があるといえます。

使い込みの予防にも気を使い、不安や疑問がある場合は弁護士に相談しよう

遺産を取り戻すために証明すべき事実や集めるべき証拠についてご紹介してきましたが、使い込まれた遺産を取り戻すのは簡単ではなく、証拠が必要となります。証拠の評価には専門的な判断が必要となりますので、請求を検討されている方は、相続に精通した弁護士に相談してみましょう。

 

これまで、使い込まれた遺産を取り戻せるケース、取り戻せないケースについて解説してきましたが、大切なのは、そもそも使い込みを防ぐ「対策」です。財産管理を任されている人には、他人の財産を預かっている強い意識を持ってもらうよう働きかけるのも大切です。例えば財産管理契約を結んで、誰がどの財産を管理し、どのように処分できるのかを明確にしておけば、不正を防ぐ一助となります。また、被相続人に認知症などの症状が出た場合に備えて、任意後見契約を結んでおくのも有効です。

 

遺産の使い込みに関する問題は、法律の知識や手続きが複雑なため、ひとりで抱え込まず、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、あなたの状況に合わせて、最適な解決策を提案してくれます。

弁護士に相談すべき理由

  • ・相手方との交渉や調停・審判の代理人となってもらえる
  • ・トラブルになりそうな可能性を察知し、事前に対策が打てる
  • ・有利な結果を獲得しやすい
  • ・特別受益額や持ち戻し請求の計算を正しく行ってもらえる
  • ・遺留分侵害額請求を行う場合は、資料作成から提出まで対応してもらえる
  • ・面倒な法的手続きを全て任せることができる

他の相続人が特別受益を認めない場合は、トラブルになる前に弁護士に相談するようにしましょう。

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